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CASE

実績紹介

2026.06.05クライアントストーリー

常陽銀行様:金融機関水準のセキュリティと利便性を両立する、ローカルLLM基盤構築の裏側

常陽銀行様:金融機関水準のセキュリティと利便性を両立する、ローカルLLM基盤構築の裏側

課題

  • 機密情報を扱う銀行業務において、セキュアにAIを活用できる基盤が不足している
  • 汎用生成AIでは、銀行業務フロー全体への組み込みや定型業務支援に限界がある

成果

  • 自律的な業務支援を可能にする専用のローカルLLM基盤を構築し、その運用を開始できたこと

会社概要

会社名:株式会社常陽銀行

業種:銀行業(地方銀行)

お話をお伺いした方:

・丸岡政貴様 営業企画部担当部長(前DX戦略室長)

・市川友英様 経営企画部DX戦略室長

・岡崎駿様 経営企画部 DX戦略室 調査役

・今里拓朗様 経営企画部 DX戦略室 調査役

プロジェクトの概要

常陽銀行における生成AIの戦略的活用と、「伝統的銀行業務のデジタル化・業務革新」の推進に向けて開始された、ローカルLLM×AIエージェント基盤構築プロジェクト。本プロジェクトでは、汎用的な生成AIでは対応が難しかった銀行業務特有の非構造化データ処理や、業務フローへの組み込み可能性を、実運用を見据えた形で検証しました。

翻訳・マスキング・融資審査における稟議書レビュー・文書生成などの銀行業務を対象に、行内ネットワーク内で推論処理が完結するローカルLLMを活用。機密情報を安全に扱える環境を維持しながら、AIエージェントによるタスク処理や、ユーザーのAIリテラシーに依存せず直感的に利用できるプロンプトレスUIを通じて、現場業務へ生成AIを組み込むための基盤開発・検証を実施しました。

導入の背景と課題

Q.生成AIの業務活用を検討した背景や、非構造化データの処理に関して当時どのような課題を感じていましたか?

丸岡様:

御社と初めてご面談をさせていただいた2024年10月頃、当行ではすでに全行員向けに「ChatGPT」を導入し、活用を進めていました。銀行業務はもともとテキストを中心とした非構造化データの取り扱いが多いため、各種資料の構成案作成や文章添削などにおいて、一定の業務効率化は実現できていました。

一方で「業務フロー全体」で考えた際、汎用的な生成AIの限界も感じていました。例えば、AIに適切な出力をさせるために毎回プロンプトで銀行業務や前提条件を入力する手間がかかることや、出力された結果を当行指定の業務フォーマットへ手作業で転記し直す必要があることなどです。

また、行員間でプロンプト作成のスキルに差があり、全員が均一に生成AIの効果を享受できていないという「属人化」も大きな課題でした。そのため、更なる業務の高度化を目指すうえでは、単なる対話型のAIではなく、当行の非構造化データの処理を含む業務フローに直接組み込める「特定の業務に特化した生成AI」が不可欠だと強く感じていました。

Q.金融機関に必須の「高度なセキュリティ」とAIの「利便性」を両立する上で、どのような障壁を感じていましたか?

丸岡様:

金融機関である当行にとって、お客さまの機密情報を含む社内データを安心・安全に利用できる環境の構築は、何よりも優先すべき条件です。検討を開始した当時、世の中にはすでに利便性の高い生成AIツールが数多く存在していましたが、当行が求める「各種セキュリティ要件」を満たせるツールは極めて少ないのが実情でした。

また、仮にセキュリティ基準をクリアできたとしても、安全性を厳格にするあまり操作手順が複雑化したり、アクセス制限が厳しくなったりと、使い手の「利便性」が大きく損なわれしまっては元も子もありません。

つまり、「金融機関水準のセキュリティを満たしながら、専門知識を持たない行員でも直感的に使える利便性を備えたツールが市場に見当たらないこと」が最大の障壁でした。

Q.共同実証実験のパートナーとして、Athena Technologiesを選定した決め手は何だと考えていますか?

岡崎様:

共同実証実験のパートナーとして御社とご一緒させていただいた最大の決め手は、「最先端技術を現場へ落とし込む提案力」と「当行に寄り添った粘り強い伴走姿勢」です。

御社は松尾研発スタートアップとしての深い知見はもちろん、「技術をいかに銀行の現場で使いやすい形にするか」という業務理解への熱意に最も魅力を感じました。高度なAIの提供に留まらず、専門知識が不要な「プロンプトレスUI」など、現場目線の利便性を追求してくださった点が嬉しかったです。

また、当行が求める高いセキュリティ要件に対し、インターネット非接続の「ローカルLLM」による機密性確保や、AIエージェントによるタスク処理をご提案いただきました。

実証実験では既存の業務フローとの兼ね合いなど様々な壁に直面しましたが、御社は決して諦めず、一緒になって解決策を考案してくださいました。この粘り強く真摯な姿勢に大変感謝しており、確かな技術力と共に信頼関係を築けたことが、御社と協業できて本当に良かったと感じている点です。

プロジェクトの推進とPoCの取り組み

Q.PoCで検証したユースケース(翻訳、マスキング、融資審査、文書生成)は、どのような基準で選定していますか?

岡崎様:

各ユースケースは、ローカルLLMの最大の強みである「セキュアな環境での利用」と、「AIエージェントによる定型業務の最適化」という2つの観点にマッチする業務として選定しました。

具体的には、翻訳においては、他の生成AIには投入できなかった機密性の高い資料の処理を実現することを目指しています。マスキングについても同様で、ローカル環境で安全にマスキング処理を行うことで、個人情報の入力が制限されている他のAIツールやBIツールへのデータ連携が可能になり、データ利活用の幅が広がると期待しています。

一方、融資審査における稟議書レビューは、多くの行員が携わる事務作業の効率化と品質の底上げを狙ったものです。融資審査部門のナレッジをAIエージェント化することで、営業店が作成する稟議書の品質水準向上を目指しています。

文書生成においては、インプット資料をもとに当行指定のフォーマットへ情報を落とし込む手間のかかる作業を対象としました。これらの定型業務がエージェントによって代替・支援されることで、行員の生産性が大きく向上すると見込んでいます。

Q.要件定義や開発において、Athena Technologiesとの連携やサポート体制はどのように評価していますか?

今里様:

PoCから要件定義、開発、テスト、本番移行に至るまで、すべての工程において迅速かつ丁寧なコミュニケーションをとっていただきました。そのおかげで、短期間の開発でありながら、スケジュール通りにリリースを迎えることができました。

とくに本番環境への移行フェーズでは、当行独自のネットワーク環境に合わせて臨機応変に動いていただきました。当初予定していたVM構成を柔軟に見直していただき、ネットワーク環境の構築事業者様とも密に調整していただいたことにより、プロジェクトを進める上での課題を一つひとつクリアすることができ、本当に助かりました。

また運用保守に関しても、行内ネットワークに完全に閉じた環境を維持するため、定期的に当行へご来訪いただくなど、物理的な側面も含めてセキュアな体制を構築していただいたことに大変感謝しています。

成果と今後の展望

Q.実用レベルに達した翻訳およびマスキング業務により、現場の業務負担はどのように変化すると見込んでいますか?

今里様:

正直に申し上げますと、翻訳やマスキングといった単体のタスクにおいては、すでに導入済みの生成AIツール等でカバーできる部分もあるため、目先の業務負担軽減という点では効果は限定的かもしれません。
しかし、私たちは今回のプロジェクトにおいて、「AIエージェントを活用して自律的な業務支援を可能にする、当行専用のローカルLLM基盤を構築し、その運用を開始できたこと」自体に非常に大きな意義があると考えています。

このエージェントが稼働する基盤ができたことで、今後は現場の業務効率化や高品質化に寄与するような、銀行業務の中核により近いユースケースを柔軟に追加していくことが可能となります。それらが現場に浸透していくことで、将来的には加速度的に効果が現れてくると期待しています。

Q.今回のローカルLLM基盤構築を踏まえ、常陽銀行における今後のDX推進や新サービス提供についてどのようなビジョンを描いていますか?

市川様:

当行では「DX戦略ロードマップ」を策定しており、その中の「伝統的銀行業務のデジタル化・業務革新」という戦略カテゴリにおいて、銀行業務における生成AIの戦略的活用をKSF(Key Success Factor)と定めています。

現在、当行(当組織)では、業務の性質や専門性に応じて複数のAIモデルを使い分ける「最適配置」によるDXを推進しています。

まず、日常的な汎用業務においては、ChatGPTおよびRAG(検索拡張生成)、戦略立案や企画検討といった高度な判断が求められる領域では、高推論モデルであるGeminiを導入しました。これにより、リアルタイム性の高い情報収集や、戦略策定における精度の高い「壁打ち」が可能となっています。

そして秘匿性が求められる業務や、銀行の専門業務への対応は、今回構築したローカルLLMによるAIエージェントが重要な柱になると考えており、 今後は融資審査の領域など、業務適用可能なユースケースの拡充を進めていきます。

現段階では、AIの力を借りて行員の業務を抜本的に変革していくことでDX化を推し進めていくことを主眼を置いていますが、今後は 定型業務や時間を要する作業をAIが担い、行員が「人にしかできない付加価値の高い業務」に集中できる環境を整備していく方針です。 この業務変革と環境整備の延長線上に、お客さまへのより質の高い、新しいサービスの提供があると考えており、引き続き全行を挙げて推進してまいります。