Athena Technologies

CASE

実績紹介

クライアントストーリー2026.04.07

関西電力様:ローカルLLM×四足歩行ロボットで実現する次世代インフラ点検

関西電力様:ローカルLLM×四足歩行ロボットで実現する次世代インフラ点検

課題

  • 従来型ロボットの限界と運用コスト
  • 重要インフラのAI活用におけるサイバー攻撃リスクと安全なAI運用基盤の欠如
  • 次世代事業創出に向けた、現場での実践的な運用知見の不足

成果

  • プログラミング不要・音声指示による自律的タスク実行の実証
  • 外部通信ゼロの「完全閉域環境」における最小制御基盤の確立

会社概要

会社名:関西電力株式会社

業種:電気・ガス・熱供給・水道業

お話をお伺いした方:髙元様・上野様

プロジェクトの概要

関西電力グループにおける次世代の事業創出に向け、開始されたフィジカルAI領域の実証プロジェクト。本PoCの目的は、汎用性・適応性・学習/推論による運用コスト削減をどこまで現実の制約下で成立させられるかの検証として開始しました。

発電所をターゲット施設とし、四足歩行ロボットを活用しました。完全閉域ネットワーク内でローカルLLMを稼働させ、プログラミング不要でロボットに作業(巡視・点検・アラーム対応など)を指示・自律実行させるための最小制御基盤を開発・検証しました。

プロジェクト発足の背景と「フィジカルAI」への着目

Q. なぜフィジカルAIに着目したのか?

髙元様:関西電力では、少子高齢化の進展に伴う人手不足を背景に、点検・巡視業務の省力化が喫緊の課題となっています。こうした状況の中でAIやロボット技術が社会実装できるレベルまで進化し、フィジカルAIという領域が盛り上がってきたことが着目のきっかけです。

Q. 従来型ロボットの限界と課題とは?

髙元様:従来のロボットは決められた動作しかできないため、現場で障害物や状況変化などに応じて柔軟に対処できないことが広く実装できない要因となっているのではないかと感じています。そのため、リアルタイムで状況を認識し、判断し、行動まで自律的に実行できるフィジカルAIが必要だと感じました。

Q. なぜ「完全閉域環境でのLLM運用」にこだわったのか?

髙元様:正直に申し上げると、完全閉域環境は最優先の要件ではありませんでしたが、Athenaさんとの意見交換をきっかけに検証の対象としました。ただ、発電所などの重要インフラに関するデータは非常に機密性の高いものとなることから、セキュリティ対策として完全オフラインでの運用は不可欠な条件だと考えるに至りました。

松田(Athena):クラウドLLMを利用する場合、APIの仕様変更やバックエンドモデルの更新によって、出力特性や精度が変動するリスクがあります。完全ローカル運用により、安定した稼働を実現できるという観点からも、閉域環境は有効だと考えています。

様々な地形での移動に適した四足歩行型のロボットシステムで、捜索救助、検査などの用途も想定。

PoCの取り組みとAthena Technologiesの評価

Q. 今回のPoCで検証したタスクは?

上野様:まず完全閉域環境下での無線通信ネットワークを構築し、LLMとロボット間の通信確立を検証しました。その上で、

  1. 施設の地図を学習させ目的地まで自律的に判断して巡回するルート巡視
  2. 音声やテキストでの指示を理解してロボットが自律的に行動するタスク実行
  3. 特定ポイントでの撮影・画像分析による異常検知とテキストレポートの生成

の3つの主要タスクを検証しました。

Q. 技術的・運用面で苦労した点は?

松田(Athena):主に2点です。1点目は、LiDARを使った自己位置推定を実装・検証できる開発環境が十分に整備されておらず、実装プロセスに制約があった点です。2点目はハード面で、コード上の動作と実機での動作に乖離があり、例えば理論上は1メートル動くはずが実際には誤差が生じるなど、現場でのチューニングが多く発生しました。

上野様:複数のモデルを完全ローカルで同時稼働させる必要があり、GPU2基のリソース配分が非常に難しかったです。メモリ不足で動作しない、逆に絞りすぎて動かないという試行錯誤を繰り返しました。また、モデルごとに実行環境の要件が異なり、バージョン依存関係の調整にも工数を要しました。

Q. なぜAthena Technologiesをパートナーに選んだのか?

髙元様:ロボットの検証は、現場での反復的なトライアルと調整が不可欠であり、リモートのみで完結するものではありません。そのため、関西電力と同じ関西に拠点を有するAthena(京都)さんであれば、両社が現場で密に連携しながら開発を進めることができると考えました。

加えて、閉域環境での検証という観点から、ローカルLLMの実績が豊富な点も、選定する上でのポイントになりました。

上野様:プロジェクト進行中、行き詰まる場面が多くありましたが、その都度、過去の開発知見をもとに解決の糸口を素早く提示いただきました。ロボット制御の問題に対しても、柔軟にプログラムを書き換えてアップデートを重ねてくださり、スピード感のある対応が大変ありがたかったです。

髙元様:Athenaさんは、若いメンバーで構成されているスタートアップ企業ですが、プロジェクトマネジメントが非常にしっかりしていた点が印象的でした。技術面だけでなく、書面の手続きや進行管理もきちんと対応いただき、安心してプロジェクトを任せることができました。また、弊社のエンジニアが技術を理解し、一緒に開発できるよう、丁寧にサポートいただいた点も高く評価しています。

今後の展望と次世代事業への期待

Q. 業務運用コスト削減へのインパクトは?

上野様:例えば、自律ロボットが電気事業の現場に適用できるようになれば、夜間など人が立ち入りにくい時間帯にも自律的に稼働できるため、インフラ設備の管理品質の向上が期待できると考えています。これまで人の稼働時間に縛られていた点検の頻度や時間帯の制約がなくなり、24時間対応や点検頻度の向上など、運用の選択肢が大幅に広がると考えています。

Q. 複数拠点・複数タスクへの展開ロードマップは?

上野様:複数拠点への展開には、マルチロボットの協調制御技術の開発が必要だと考えています。タスクの面では、現在は施設内の歩行・巡回にとどまっていますが、将来的にはアームを装備して電気設備の扉を開けて内部を確認するなど、フィジカルAIとしての能力をさらに高めていくことに挑戦したいと考えています。段階的に「判断・支援」から「簡易作業」、そして「複合的タスクの自律実行」へと領域を拡大していくイメージを持っています。

Q. フィジカルAIを通じた将来の価値提供の展望は?

髙元様:人がいない時間帯でも設備・施設の状態をデータ化・可視化し、必要な時にはアクションにまで繋げられる仕組みの確立を目指しています。
より高度な新しいインフラ管理を実現し、将来にわたって地域社会の安全・安心を守ることによって、弊社グループの経営理念「“あたりまえ”を守り、創る」を達成することが最終的な目標です。
また、今回のような取り組みを通じて関西でエンジニアが活躍できる事業やコミュニティを創っていきたいと考えており、今回のテーマであるフィジカルAIやインフラ管理のみにこだわっているものではありません。弊社は、新技術を社会実装していくことを目指し、関西地域または弊社グループにおいて、技術と知見を蓄積・循環させるサイクルを作り出すことを通じて、新たな価値の創造、ビジネス創出に繋げていきたいと考えています。

松田(Athena):Athenaとしての展望もお話しさせてください。まず前提として、フィジカルAIには複数のレイヤーがあります。
センサーの精度などのハードウェア層、関節・モーターの制御層、そしてタスクをどう実行するかというオーケストレーション層です。センサーや基盤モデルはビッグテックが担うと見越した上で、私たちが価値提供すべき領域はその上位のオーケストレーション・制御部分だと考えています。
また、四足歩行ロボットが最適かどうかも含め、ユースケースに応じた最適なロボット形態の選定も、今後重要な検討ポイントになると認識しています。